『オン・ザ・カム・アップ いま、這いあがるとき』
アンジー トーマス/作 服部 理佳/訳 岩崎書店
新着図書の中から今回紹介するのは『オン・ザ・カム・アップ いま、這いあがるとき』です。
主人公のブリは伝説のラッパーを父に持ち、自身もラッパーを夢見る16歳の女子高生。
ある日、黒人やヒスパニック系に偏見をもっていた学校の警備員からいわれのない嫌疑をかけられ、暴力を受けてしまいます。
その事件に対する怒りの気持ちを込めて作ったラップが、他の生徒たちの心を焚きつけみんなで声をあげていくのですが、ブリの心は複雑で…
BLM(ブラック・ライヴズ・マターの略)運動が世界的なムーブメントとなっている昨今。BLMを素直に訳せば「黒人の命は大切だ」となります。日本に暮らす私たちには人種差別がどのようなものなのか、なかなか日常のこととして想像しにくいですが、ブリの母親のセリフがとてもわかりやすいので紹介します。
―黒人だけがちがうルールで戦わなくちゃいけないことはよくあるのよ。まわりは簡単なチェッカーゲームをしてるのに、わたしたちだけが恐ろしく複雑なチェスをやらされてる。厳しいけどそれが現実。―
同じことをしても白人の生徒なら見逃されることが、黒人の生徒は停学処分にされる。ただ買いものをしたいだけなのに、万引きすると疑われて店を出るまで店員につきまとわれる。一つ一つは小さなことでもそれが毎日のように繰り返され、積み重なれば、なぜ自分たちばかりこんな目に遭わなければいけないのかという怒りを覚えて当然だと思います。
アメリカで今起きている現実が物語を通してよくわかり、BLM運動への理解が深まりますが、それだけではなく高校生らしい恋や友情、夢もつまっているのがこの本の魅力です。
BLMってなに? と思っている人や、ヒップホップなどのブラックカルチャーに興味がある人にもおすすめです!
1月から3月のYA向け新刊はこちら
- 『いただきます。ごちそうさま。』 あさの あつこ/作 加藤 休ミ/絵 東 雅夫/編 岩崎書店
- 『花言葉でさよなら』 小林 深雪/著 牧村 久実/画 講談社
- 『明日、学校へ行きたくない 言葉にならない思いを抱える君へ』 茂木 健一郎/著 信田 さよ子/著 山崎 聡一郎/著 KADOKAWA
- 『青春の本棚 中高生に寄り添うブックガイド』 高見 京子/編著 全国学校図書館協議会
- 『詩人になりたいわたしX』 エリザベス アセヴェド/作 田中 亜希子/訳 小学館
- 『オン・ザ・カム・アップ いま、這いあがるとき』 アンジー トーマス/作 服部 理佳/訳 岩崎書店
- 『学校、行かなきゃいけないの? これからの不登校ガイド』 雨宮 処凛/著 河出書房新社
- 『音楽で生きる方法 高校生からの音大受験、留学、仕事と将来』 相澤 真一/著ほか 青弓社
- 『きみのいた森で』 ピート ハウトマン/作 こだま ともこ/訳 評論社
- 『怪盗ルパンさまよう死神』 モーリス ルブラン/作 平岡 敦/訳 ヨシタケ シンスケ/絵 理論社
- 『アーサー王の世界 6』 斉藤 洋/作 静山社
- 『なんで洞窟に壁画を描いたの? 美術のはじまりを探る旅』 五十嵐 ジャンヌ/著 中島 梨絵/画 新泉社