『さよ 十二歳の刺客』
森川 成美/著 槇 えびし/画 くもん出版
魅力的な表紙が目を引きます。負けん気の強そうな少年が、見事な黒い馬にまたがりこちらを睨んでいます。その姿は凛々しく気迫が漂っています。この少年(実は少女)こそがこの物語の主人公さよです。
平家が全滅した壇ノ浦の戦い。さよは平家の総大将平維盛の娘で、この戦いの中でただ一人生き残りました。さよには心に秘めたただ一つの望みがあります。それは源氏の総大将源義経をわが手で討つこと。義経はさよから大切な父や母を奪い、平氏一族を滅ぼした憎き男なのですから。そのためにさよは、弓や馬の練習に余念がありませんでした。そうこうするうちに、とうとうそのチャンスが巡ってきたのです。
さあ、さよは本当に義経に復讐することができるのでしょうか?
これは史実に基づいて作られた物語です。
さよが実在の人物かどうか、そして本当にこのようなことがあったのかどうか、それはわかりません。そして今更史実を変えることもできません。しかし、もし平家の姫がただ一人生き残ったとしたら・・・と仮定してみたり、義経の側から描かれることの多い源平の戦いを平家側の目線で描いたとしたら・・・と視点を変えたりすることで歴史の世界が思いもかけなく広がっていくのではないでしょうか。
この物語を読むと、歴史上の史実が単なる事柄ではなく、豊かで人間味に溢れた出来事として感じられるように思うのです。